日本語で読む:冗長な表現を減らす
「〜と考えられる」「〜のではないかと思われる」。日本語の科学論文では、断定を避けるこうした文末表現がごく自然に、ほとんど無意識に使われます。この感覚のまま英語にすると、"it is thought that"、"it can be considered that"、"it might be suggested that" のような、意味をほとんど足さない前置きが文の先頭に積み重なっていきます。削っても意味が変わらない語は、すべて削る。これが結論です。「見た目が丁寧そうだから」ではなく、「意味がそのまま残るかどうか」で判断してください。
日本語の「〜と考えられる」は、単独では強い断定を避けるための、いわば文法的な習慣です。ところが、この一語を英語の "it is considered that" や "it can be said that" にそのまま移すと、英語側にはすでに hedge の役割を持つ助動詞(may、could、might)が別に用意されているため、二重に控えめな表現が重なってしまいます。結果として、"It might possibly be considered that the results could suggest a trend" のような、控えめさが積み重なって逆に読みにくい文が生まれます。日本語で一語だった慎重さが、英語では複数の単語に分散して残ってしまうのです。
典型的な直訳調の文を見てみましょう。
直訳調: "It is considered that there is a possibility that a slight reduction in sugar intake could possibly extend one's lifespan."
ここには少なくとも三つの冗長な部分があります。"It is considered that" は文全体をぼかす前置きで、なくても文意は変わりません。"there is a possibility that" と "could possibly" は、どちらも同じ不確実性を別々の場所で二重に表現しています。整理すると次のようになります。
整理後: "A slight reduction in sugar intake could extend one's lifespan."
不確実性は "could" 一語で十分に伝わっています。同じ慎重さを保ちながら、単語の数はほぼ半分になりました。
日本語の論文では主語(私たちは、本研究では)を省略するのが標準的な書き方なので、英語にするときも反射的に受動態や "it is ~ that" 構文を選びがちです。しかし英語では、"There are several studies that suggest a link between X and Y." よりも "Several studies suggest a link between X and Y." のほうが短く、かつ自然です。「there is/are 〜 that」は、本当の主語を三語ほど遅らせているだけで、それ自体は何の意味も運んでいません。日本語で主語を隠す習慣が、英語では単に冗長な導入部を増やす結果になっている、という理解を持っておくと、この癖には気づきやすくなります。
もう一つ多いのが、同じ不確実性や強調をすでに含んでいる語に、さらに別の語を重ねるパターンです。"possibly could"(couldがすでに不確実性を含む)、"about 15-20"(範囲自体がすでに「およそ」を意味する)、"very critical"(criticalはすでに最上級に近い)などです。取り除いても意味が変わらないかどうかが、そのまま判定基準になります。
日本語の下書きを生成AIで英訳させる場合、ここまで説明してきた冗長さは、人間が直訳するときよりもさらに重なりやすくなります。理由は二段構えです。まず、AIは入力された日本語の「〜と考えられる」「〜のではないかと思われる」という慎重な言い回しを、律儀にそのニュアンスごと英語に持ち込もうとします。そのうえで、生成AI自体にも、断定を避けて安全側に倒れた表現を選ぶという、独自の癖があります。誤りを断定的に言い切ることを避けるように訓練されているため、"may potentially suggest"、"it could be considered that" のような、もともと英語には不要な二重・三重のヘッジを、頼まれてもいないのに自分から足してくることがあります。つまり、日本語の慎重さとAI自身の慎重さが、同じ一文の中で足し算されてしまうのです。AIに英訳や下書きを頼んだ原稿ほど、"could"や"may"のような不確実性を示す語が一文に二つ以上ないか、意識して数えてみる価値があります。
ジャーナルの語数制限は、単なる形式上の制約ではありません。自分の主張の中で何が本当に重要かを選び抜けているかを、間接的に測っています。制限を10語オーバーしているAbstractは、たいてい10語分の内容が多いのではなく、10語分の「言葉のノイズ」が混ざっているだけです。査読者はその主張にたどり着く前に、まずこのノイズに気づきます。
語数オーバーの原稿を前に、どの語が本当に必要でどの語がノイズなのか、自分ではもう判断がつかないという状態は珍しくありません。そこは第三者の目が最も役立つ場面で、レベル3の英文校正では、この冗長さの整理を文法や構成の確認とあわせて行います。AIに英訳・下書きさせた原稿で、日本語由来とAI由来のヘッジが積み重なっていないか確認したい場合は、リライト編集のほうが、文単位の削除では足りない構成レベルの整理まで対応できます。
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