Discussionの段落がやたらと「On the other hand,」で始まる原稿を、Uni-editの校正チームはよく見ます。原因のほとんどは、日本語の「一方」をそのまま英語に置き換えていることです。日本語の「一方」は話題を切り替える接続詞としても使えますが、英語の「on the other hand」は本当に対立する二つの内容を比べるときにしか使えません。ここがずれると、対立していないはずの文が急に反論のように読めてしまいます。
日本語の「一方」は、たとえば「A手法には利点がある。一方、B手法についても検討した。」のように、対立関係が薄くても段落を切り替える合図として自然に使えます。ところが英語の「on the other hand」は、「一つの見方を示したあと、もう一つの、それと張り合う見方を示す」という限定された役割しか持っていません。話題を変えたいだけなのに「on the other hand」を挟むと、読者は「え、何と何が対立しているの?」と一瞬立ち止まってしまいます。
本当に対比になっている例はこうです。
Method A achieves higher sensitivity under low-noise conditions. On the other hand, Method B remains stable even when the signal-to-noise ratio drops sharply.
この場合は二つの手法が本当にトレードオフの関係にあるので、「on the other hand」が正しく機能しています。
対立ではなく、単に別の観点や追加の情報を加えたいだけなら、"in addition" や "moreover" のほうが正確です。
Method A achieves higher sensitivity under low-noise conditions. In addition, it requires less computational time than Method B.
ここでは対立ではなく、Method Aの長所を積み増ししているだけなので、「on the other hand」を使うと逆に読者を混乱させます。「一方」を英語にするたびに反射的に「on the other hand」と書く癖がある場合は、まずその一文に本当に対立があるかを確認するだけで、かなりの数を正しく直せます。
もう一つよく見る誤用が「besides」です。日本語の「そのうえ」「それに」の訳語として教わることが多いのですが、英語の「besides」には「すでに結論は決まっていて、そのおまけの理由を付け加える」という、やや投げやりなニュアンスが伴います。方法選択の根拠として使うと、「本当は根拠が弱いから数を稼いでいるのでは」という印象を査読者に与えかねません。同じ「付け加える」でも、"moreover" や "furthermore" のほうが学術的な文章では安全です。
生成AIに日本語の下書きを英訳させたり、英文の「流れ」を整えるよう依頼したりすると、"On the other hand,"、"Moreover,"、"In addition," のような接続語を、文と文の間にほぼ機械的に挿入してくる傾向があります。これは実際に対立や追加の関係があるかどうかとは関係なく、単に文をつなげて読みやすく見せるための癖のようなもので、AIが生成した英文によく見られる特徴として指摘されています。AIに整えてもらった原稿を読み返すときは、挿入された接続語一つひとつについて、この記事の判定(対立か、追加か)を人間の目でかけ直す価値があります。
「一方」と打つ前に、一瞬だけ立ち止まって「この二つは本当に対立しているか、それとも単に話題や情報を足しているだけか」を確認してください。対立しているなら "on the other hand"。足しているだけなら "in addition" か "moreover"。この確認だけで、Discussionの説得力はかなり変わります。
つなぎ言葉の使い分けをまとめて見直したい場合は、Uni-editの英語版書籍「How to Fix Your Academic English and Publish Your Research Faster」に専用の章(英語)があり、より多くの実例を扱っています。
こうした語のニュアンスは、書いた本人がいちばん気づきにくい部分です。原稿全体を通して確認してほしい場合は、レベル3の英文校正で、文法や構成とあわせて見てもらうことができます。AIで下書きや接続語の調整をした原稿は、こうした機械的な挿入がまとまって残っていることが多いため、リライト編集で構成レベルから見直すほうが向いている場合もあります。
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